• 2025.08.07
  • ワイワイ それとも そっと?
イタリアで暮らしていると、「あ、ここ日本とちがうな」と感じる瞬間がよくあります。その中でも特に面白いと思うのが、手土産の文化。知人の家に夕食に招かれたとき、イタリアではホストにはワイン、奥様に花、その他にジェラートやケーキなど何かしら持っていくのが当たり前のようになっています。

でもその手土産とは、基本的に「その場で一緒に楽しむ」ためのもの。たとえば、持ってきたワインをそのまま開けて、即みんなで乾杯!ジェラートも食後に「これ、買ってきたんだよ」と笑顔で差し出し、みんなでワイワイ食べる。「せっかく集まったんだから、楽しい時間をシェアしよう」という発想。


ところで招待客がワインを持って来てくれた時は、そのワインを開けるのが正しいか、または、自分が用意したワインを開けるのが正しいか、本当のところはどちらが正しいでしょう?ワインの場合は自分で用意したワインを開けるのが本当は正しいのです。というのは、自分が用意したお料理に合わせてワインを準備するのが基本だから。ただ実際の所は、そういうマナーにこだわっていないシチュエーションが多い。


ところで日本でのお土産文化はどうでしょう。どんなシチュエーションでも、手ぶらで会うのはタブーな傾向があるように思います。でもどちらかというと、あとで静かに(笑)食べてもらうということが前提で、包装のきれいなお菓子を渡すことが多いように思います。そして「つまらないものですが…お口に合うといいのですが…」なんて、ちょっと遠慮気味に手渡す感じ。相手の好みや負担にならないかを気にすることが大切なように見えます。



この違いは、プレゼントの渡し方にも表れます。たとえばイタリアに限らず西洋では、プレゼントを受け取ったら、その場で包装をビリビリっと勢いよく破って開けるのが普通で、包装紙の選択や包み方、デコレーションの付け方などを苦心した私の時間と努力は評価されず「わあ、ありがとう!これ欲しかったの!」とその場で喜びを表現することが、感謝の表し方とされているのです。

でも日本ではどうでしょう? 目の前で包み紙を破くのを躊躇い、むしろ丁寧に持ち帰って、家で静かに開けて、お礼の言葉は後であらためて…というのが一般的かもしれませんね。「開けずにそっと受け取る」ことが、相手への礼儀や配慮と考えられているのではないでしょうか。そっと贈られて、そっと受け取るみたいな感じ。

イタリアと日本、どちらも手土産やプレゼントを通して相手への思いやりを表しているのは同じ。でも、その表現のしかたがずいぶん違うのが面白いところ。イタリアでは「一緒に楽しむこと」が大切にされ、日本では「相手の心地よさに配慮すること」が重視される。それぞれの文化に、違った美しさがあります。

というわけで、あなたがイタリアに来た時にプレゼントをもらったら、思い切ってビリビリ破いて開けてみてくださいね。一方私が日本に行ったら、綺麗な包装紙のお菓子を慎ましく、そっと渡す礼儀作法をリトライしようと思います。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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