• 2025.10.02
  • ふたつの世界を持つビーチ
イタリアといえば、美しい地中海の海岸線。観光客だけでなく、地元の人々にとっても夏の海は欠かせない存在です。チョコレート色にこんがり日焼けをした肌は、ビーチで優雅なバカンスを過ごした証でもあるのでイタリア人は競うかのように日焼けに専念するものです。
ところで、イタリアでは「有料ビーチ」と「無料ビーチ」がはっきりと区別されています。

有料ビーチは、整然と並んだデッキチェアやカラフルなパラソルが特徴的。利用者は料金を支払って、椅子とパラソルのセットを一日、もしくは半日単位でレンタルします。さらに、シャワー、鍵付き更衣室、トイレといった設備も使えるのが一般的です。中にはカフェやレストランが併設され、冷たいドリンクやジェラートを海を眺めながら楽しめるところもあります。その他にもビーチバレーコート、カヌーや足漕ぎボートなども借りることが出来たりします。場所によっては、パラソルに鍵付きのテーブルがあって、更衣室まで行かずに貴重品を仕舞って、場所から離れても安心感があります。


一方、柵を隔てたすぐお隣の無料ビーチには設備が殆どありません。自分でタオルを敷いて日光浴をしたり、持参したパラソルを立てて過ごしたりします。もちろん、出費を抑えたい人や自由に海を楽しみたい人には人気ですが、夏の観光地では混雑が激しく、場所取りも一苦労です。音楽を大音量で聞いている人がいる、という記憶が私にはあったりします。太陽が動くと、パラソルの日陰の場所も変わってしまうので、混雑したビーチでは自由が効かず、予想外の過度な日焼けを強いられることも。


そして毎年ニュースになるのが「有料ビーチの料金の高騰」。
特に観光客の多いアマルフィ海岸やサルデーニャ島、リグーリア地方の人気スポットでは、パラソルとデッキチェア2脚のセットで一日あたり50〜70ユーロ(約8,000〜11,000円)という高額になることもあります。さらに、最前列、つまり波打ち際に近い「一等席」と呼ばれている所は、同じセットでも100ユーロを超えることも珍しくありません。この「一等席」には暗黙の了解の隠された習慣があって、それはビーチタオルも家族全員お揃いの一等にふさわしいビーチタオルを敷くこと。ということは、水着やビーチサンダル、サングラスもトップデザイナー、日焼け止めクリームもトップクラス?

イタリア人自身も「海は無料のはずなのに!」と不満を漏らすのも当然。実際、海そのものの利用は法律で無料で、特別な処置が無い限りビーチは万人のために開かれていると決められていますが、これにはちょっとした伏線があって、つまりパラソルや椅子の“快適さ”にお金を払う、という考え方によって、ビーチでの楽しみ方を完全に分けています。
逆に「無料ビーチ派」の人たちは、シンプルに自然を楽しみたい、あるいは「高い料金を払わなくても海は同じ」と割り切る人たち。まさに、イタリア人の間でも「快適さを取るか、自由を取るか」という夏の選択が繰り広げられる訳です。
ただ、どちらを選んでも、イタリアの太陽の下で過ごす夏の一日は格別です。訪れる際には、旅のスタイルや気分に合わせて「快適派」か「自由派」かを選んでみるのも、イタリアならではの楽しみ方かもしれません。


特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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