イースターは、イエス・キリストの復活を祝福するカトリックの伝統行事です。カトリックにおける祝祭日は、オランダでは国民の祝日とされていますから、オランダ国民はみんな信仰の有無にかかわらずこの習慣に親しみ、祝日の意義を(ある程度までは)学校で教わりながら育ちます。春に祝うイースターは、新生活との関連が深いもの。飾り付けのモチーフである卵、春の花々、春らしい色、ヒヨコや子ウサギや子羊といった生まれたての可愛らしい動物などは、その象徴と言えるものですね。今年のイースターは3月27日と28日。春分のあとの初めての満月から数えて最初の日曜日と月曜日に祝う決まりなので、イースターはその年によって日付が変わります。イースターの宗教的な背景をご説明しましょう。神の子イエス・キリストは、12使徒の1人であったユダの裏切りによって磔刑に処されます。裏切りの翌日、イエスは大きな木の十字架で磔にされて死ぬのです。この出来事があった金曜日は「聖金曜日」と呼ばれ、イエスの死を悼む日として宗教上の祭日とされています。イエスの肉体は十字架から降ろされ、石の墓穴に埋葬され、丸い大きな石で塞がれます。その死から3日後に女たちが彼の墓を訪れた時、イエスの体はそこにありませんでした。イエスは死を乗り越えたのです。イエスの復活は、死後40日の間に彼の使徒たちの前に姿を現したことによって証明されます。聖書において最重要視されていなくとも、イエス・キリストの磔と復活はきわめて重大な出来事であることは言うまでもありません。カトリック教徒は、イースターの日曜日には教会に行き、イースターの特別な説話を聞きます。説話が終わったらそれぞれ帰宅して、家族(や友人たち)と共にイースターに付き物のご馳走を並べた豪華な朝ごはんやブランチ、通称“paasontbijt(復活祭の朝食)”または“paasbrunch(復活祭のブランチ)”を食べます。
特別な信仰を持たないオランダ人にとってのイースターの存在意義は、気楽な文化的習慣であり、それ自体をみんなで楽しむためのもの。イースターの月曜日だけは学校や職場がお休みになるわけですが、ほとんどの人がpaasontbijtや paasbrunchを食べています。お祝いのテーブルには、色や飾りを付けておめかしした固ゆで卵、子羊や子ウサギの形のバター、それから何と言っても、甘いアーモンドペーストやナッツ類、細かく刻んだ砂糖漬けの果物を中に詰めたpaasbrood(イースターブレッド)が欠かせません。これが北ホラント州(アムステルダムを含む)になると、また違ったタイプのパンが登場します。その名はduivekater(英語で「デビルズケーキ」)。デビルズケーキは、さまざまな趣向を凝らした型で焼いた甘くて白いパンのことで、かつて宗教上の儀式で用いられた肉片に似せて作ってあります。卵とパンの他に、サンドイッチ用の多種多様なトッピングやスプレッドがテーブルを彩ります。これらの手の込んだご馳走は、イースターの日曜日に供されるのが一般的です。イースターは、子供が楽しめるような演出も盛り沢山です。イースターの朝食やブランチのメニューにも出て来る、固ゆで卵にお絵描きするのもそのひとつ。子供たちのための有料のエッグペイントコーナーが、あちこちのショップに設置されます。 また、卵狩りという遊びもあります。食後みんながお腹いっぱいになったところで、カゴを持った子供たちが家の中や庭に隠してある卵を探し回るのです。卵狩りは地域の庭園や公園でも開催され、そちらは誰でも参加可能です。子供たちが探すのは、たいていの場合はチョコレート製の卵。どこのスーパーマーケットにも色んなサイズとフレーバーが揃っているので、大人があらかじめ買って隠しておくのです。イースターバニー(イースターの子ウサギ)がやって来て、子供たちのために卵を隠して行くという言い伝えもありますが、子供たちはそんな話を信じてはいません。これもまた、イースターならではの可愛いウラ事情でしょうか。オランダでは国民の休日のほとんどがカトリックの祝日にちなんでいますが、これらの行事はオランダ文化全体にとっても大切な要素です。私自身について言えば、家族と共にテーブルを囲んでたっぷり時間をかけたブランチを楽しみ、食後は春先の景色を眺めながらアムステルダムの街歩きをするのがイースターの過ごし方です。