温暖な気候で知られるこの土地は、冷たい北風を遮断してくれる山々が6割強を、海に向かって急勾配の斜面が続く緩やかな丘陵地帯が3割強を占めています。この地形と働き者の住人の組み合わせが、上質な花の一大生産地を築いたというわけですね。
水分を通さない石で覆われた急勾配のこの土地を栽培に適した環境にするには、何らかの手を加える必要がありました。そこで、この地域ならではの技術を駆使して整備したのが段々畑です。畑を支えるように張り巡らした石垣は、土砂崩れや腐食の被害を最小限に食い止める役割を担っています。
リグーリア州全域にある段々畑の用途は多様で、オリーブ園や果樹園、ワイン醸造用のブドウ園、柑橘類の栽培、そして何と言っても、花の生産が盛んにおこなわれています。屋外はもちろん温室でも栽培できる花は、気候条件に左右されにくく安定した農産物なのです。
花はリグーリア州の大切な特産品ですが、とくにインぺリア県の西海岸地域では、花の存在感が半端じゃありません。このエリア特有の海に向かって流れ落ちるように傾斜した土地に広がる農園では、さまざまな種類の高品質なカーネーションやバラの栽培が行われています。
縮れた花びらが特徴の地中海産カーネーションは、リグーリア州の草花生産者の努力によって美しい新種のカーネーションに変身しました。花の栽培という仕事は、多くの時間と労力、忍耐力を必要とするもので、競争激化が著しい国際市場に通用するものを作るのは、生易しいことではありません。この仕事に従事している友人に話を聞いたところ、気候の変化に対応し、ヒョウ交じりの嵐だの霜だのといった自然現象に伴うダメージを克服するためには、絶えず事業を改善する姿勢が必要だ、と言っていました。
「こんなに苦労して働いても」とその友人は打ち明けてくれました。「フランスでさえ我々からラベンダーを輸入していて、リグーリア州こそがラベンダーの主要な輸出元なのに、世界的にはラベンダーと言えばフランス産!というイメージが強いからね」
耕地面積2,000ヘクタールを超えるまでに広がった花の栽培は、年間当たり数百万ユーロの市場価値を生み出しています。しかし、不透水性の土壌開墾に伴う困難や、避けがたい都市化による花樹栽培用地の削減などの厳しい現実を前に、何度も危機的状況にさらされてきました。 今あるすべての温室を近代化し、「メイド・イン・リグーリア」ブランドの花の量産を現在と同じレベルで維持するために温室の新設を提唱する大企業もあります。世界各国向けの輸出を促進するべく、花樹生産者たちもまた輸送手段のイノベーションに注目しています。海外向けの花の出荷が行われるアルベンガ空港(リヴィエラ空港)の拡張工事や、イタリア国内向け発送の時間短縮を可能にするサンレモ鉄道駅の拡大計画などがその例です。
ジェノヴァ大学の建築学部では、「造園家」を志す学部卒業生向けの特別コースなど、独自の学科がいくつか設置されています。ここで学位を取得した造園家たちは、公園や庭園を設計、改修したり、それらを花畑に転換する仕事に就くことが可能になります。
さらにジェノヴァ大学には、作物栽培および花樹栽培学科もあり、その分野で働きたい学生たちが在籍しています。学生の多くが花樹栽培のワークショップやインターンシップに参加する機会を提供されるのも、花樹栽培が地場産業として位置付けられ、この地域の伝統の一つとして継承されるべきものという考えが根付いているからでしょう。