今では世界的に有名になった米料理ですが、もとをただせばスペインの地中海沿岸、バレンシア地方の郷土料理、野良仕事の際、身近にある材料でどちらかといえば片手間に作るご飯だったようです。
いきおい本場『バレンシア・パエージャ(Pella Valenciana)』は畑や田んぼ、草むらから調達したものだけで作られ、海からの食材は、出汁用も含め一切使用しないとのこと。
ちなみにバレンシア州政府の農業・漁業・食糧・水利省はバレンシア米原産地呼称証明規制委員会と共同で『バレンシア・パエリア』の名前で商業化する際に使用すべき10種類の材料を制定しました。鶏、うさぎ、米、モロッコ隠元、葵豆(アオイ豆)、トマト、サフラン、オリーブ油、塩、水 です。これら以外に使用が認められている材料は州内の各地で伝統的に使われる、ニンニク、アーティチョーク、鴨、カタツムリ、パプリカ、とローズマリー(ハーブ)のみ。で、それ以外の異物を混入したら『バレンシア・パエージャ』という名称は使ってくれるな、だそうです。
ウサギ肉やら豆の入ったバレンシア・パエージャです。それにしても地味ですね。
使用禁止と言われてもそこは食いしん坊達、いい出汁の出る小海老やら蟹、ムール貝やら浅利にハマグリ、ヒラメに鮟鱇、調子にのって、オマールエビとか伊勢海老まで盛り込んで、まるで竜宮城の大宴会状態の『シーフード・パエージャ』まで出現しました。丁度『素うどん』が『うどんすき』やら『海鮮鍋焼きうどん』に変身したかのようですね。そうなるともう、野良仕事の片手間食から立派な宴会料理に下剋上、世界中の人々に愛されるスペインを代表する米料理になりました。
アメリカでは一家の大黒柱、お父さんが唯一その存在価値を家族全員に再確認させるイベントが庭で行う『バーべキュー』の時だとか。日本でも『すき焼き』だけはオトンがイキって仕切るように、スペインで『パエージャ』となると普段はお湯も沸かさないオヤジさんが、そのまたおじいさんからの受け売りのうんちくを並べながら作っていたようです。
そんなハレの日の料理を一人もんでもお手軽に作れるように、スーパーにはエビ、蟹、イカ、ムール貝、浅利、グリーンピース、白身魚等を適当にミックスして冷凍したシーフードパエージャセットがあり、米とサフランさえ用意すれば、『親父のパエージャ』の雰囲気だけでも味わえます。
パエージャ用お手軽冷凍海鮮セット
さて、日本でも市民権を得たこの『パエージャ』、黄色いご飯が見えなくなるほど沢山の海産物が彩りよく炊き込まれた丸い大鍋は本当に美味しそうですよね。スペインでも皆に愛される料理ですが、先日入った立飲みバーで一杯1ユーロの生ビールを注文したら、アテに出てきたのはズッキーニとベーコンの角切りだけが混入された黄色いご飯でした、これがまた美味しかった。
本格を目指せばきりはありませんが、冷蔵庫の中の残り物などで気軽にスペイン気分を味わってみませんか。ちなみにサフランはスペインでも高価な香辛料ですし、扱いも気を使いますので、ご家庭で気楽に作る時にはサフランエキスを混ぜたパウダーやColorante(コロランテ)と呼ばれる色粉がよく使われます。
(左)サフランもどき、(中)パエージャ仕様サフラン粉末、(右)乾燥サフラン
スペインへお出かけの際には、本格パエージャ用サフランとお手軽パエージャ用Colorante(コロランテ)をお土産候補に加えてください。
※Paellaの発音は一番原音に近いと思われる『パエージャ』に統一しました。