• 2017.08.09
  • こんな所に日本の職人魂
寺社仏閣は洋の東西を問わず旅行者が訪れる定番観光スポットの一つですね。
スペイン各都市には由緒ある教会が多々あり地元の信者のみならず観光客も多く訪れます。
それら教会の中でもひときわ立派なカテドラル、日本語ではよく大聖堂と訳されるので、大きな教会はすべてがカテドラルと思いきや、どうも単に大きさの問題ではなさそうです。

カテドラルと言う言葉はラテン語起源の“Cathedra”だとか、そしてその意味は教区の代表としての司教がお座りになる椅子、つまりカテドラルは司教座のある聖堂ということになります。重要なお寺ですからいきおい立派な建物にするのが通例ですが、外見は地味で小さな教会でも教区を預かる司教がいらっしゃればやはりカテドラルと呼ばれるお寺もあります。

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マドリードの小さなカテドラル
マドリードの“Iglesia Catedral Castrense” 軍隊司教座聖堂 ちんまりとした風情ですがカテドラルです。反対に建物は壮大でも司教座がないので教会ではあってもカテドラルとは呼ばない例もありますね。


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バルセロナの大きな教会
日本では”サグラダ・ファミリア教会“で知られているバルセロナで建築中の“Basílica i Temple Expiatori de la Sagrada Família” 聖家族贖罪バシリカ教会です。建築家アントニオ・ガウディの作品群として世界遺産登録された7件の一つで、建設途中ではありますがその中の一部分、ガウディ本人が手掛けた”生誕のファサード“と”地下礼拝堂“が世界遺産と認められました。


そこで神に思いを馳せ、祈りを捧げる敬虔な場所であるカテドラルをより厳粛な雰囲気にしてくれるのが天井(天上?)から降り注ぐパイプオルガンの調べでしょう。音の響きを研究し尽くして設計されたコンサート・ホールで聴く音色も素晴らしいとは思いますが、長い間、カテドラルに集う幾多の信者達の祈りと共鳴しあったパイプオルガン、信者でなくとも思わず敬虔な思いに駆られます。

首都マドリードから西へ200kmにある古都サラマンカ、そこのカテドラルで6月から7月にかけて4回のパイプオルガン演奏会が開かれました。聖歌席(クワイヤ)をはさむ2台のオルガンはそれぞれ16世紀と18世紀に制作されたもので、今回の企画は一人の奏者が続けて2台を演奏し制作時代が異なる楽器の音色の違いをも楽しめるものです。古い楽器の落ち着きと気品の中にも新鮮な響き、新しい楽器の艶のある華やかさは生演奏を聴く機会さえまれな人間にとって大変貴重な経験でした。

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パイプオルガン演奏会パンフレット
演奏会のパンフレットです。表紙と裏表紙は主祭壇に向かって左側(福音書側と呼ばれています)にある18世紀バロック様式のパイプオルガン。


福音書側に向き合う反対側(こちらは使徒書簡側と呼ばれます)にDamián Luysというマエストロが16世紀半ばに制作したパイプオルガンがあります。なんとこのオルガン、日本人の手によって修復・復元されたのです。岐阜県白川町のパイプオルガン製作者である辻宏氏が200年以上使われなかった楽器から微かに漏れる音に感動し、当局に修復許可を願い出て、ようやく1986年正式に許可を取り付けました。ところが政教分離やら経済逼迫やらで修復費用はすべて修復者側が工面するという厳しい条件つき、その費用は当時の金額では3000万円以上だったそうです。

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修復された16世紀のパイプオルガン
辻氏が修復した16世紀ルネッサンス様式のパイプオルガン。


それでも直したいという辻氏の熱意は、1981年から1984年まで在スペイン日本大使を務め、日本とスペインに豊富な人脈を持つ林屋永吉氏の共感を得、また当時の美智子妃殿下のご賛同もいただき、一年で3500万円の資金が集まりました。そして1989年ようやく修復にとりかかり1990年3月、400年前の音が再びカテドラルに響いたのです。まさに日本の職人魂が400年前のヨーロッパの職人技と共鳴した瞬間でした。

この偉業がきっかけとなり、カテドラルと同時期に創設されたスペイン最古のサラマンカ大学は1999年、構内に“サラマンカ大学日西文化センター”を設立、センター内の多目的ホールを“AULA MAGNA S.M.EMPERATRIZ MICHIKO “美智子皇后陛下大講堂と名付けその日西関係を思われるお心に感謝を捧げました。またオルガン復活に尽力した、碩学、林屋永吉氏は大阪外国語学校(現大阪外大)でスペイン語を学び、外務省に入省、1941年から1943年までサラマンカ大学に留学生として在籍しています。その縁もあってサラマンカ大学は文化センター内の図書館を“Biblioteca Embajador Eikichi Hayashiya de Estudios Japoneses” 林屋永吉日本研究図書館と命名しています。



特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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