先日撮影したご近所にあるバス停の温度計です。(17:06hrs 06/07/2020)
このような時節柄、さっぱりと涼し気な料理がうれしい夏の定番と言えば日本でもすっかりおなじみとなった冷たいスープ“ガスパッチョGazpacho”でしょう。しかし作るにはミキサーが必要で、その後始末がこれまた面倒な作業になります。ミキサーやハンド・ブレンダーが無かった時代はモルテロmortero と呼ばれる乳鉢様のすり鉢で材料を潰して作るので随分と手間暇かかる料理だったそうです。
そこで今回ご紹介するのは“ガスパッチョ”スープの親戚筋ながら、火を使わずに手早く作れ、洗い物も最小限という“ピリニャーカPiriñaca” サラダ。南のアンダルシア地方で最南端に位置するカディス県の名物料理の一つです。
まず材料が素敵にシンプル。
A 食材①トマト②ピーマン(またはパプリカ)③玉ねぎ だけ。
B 調味料①酢 ②油 ③塩 だけ。
そして作り方もシンプル
A①②③を粗みじん切りにして
B①②③で合えるだけ。
酢は出来たらワインビネガー(写真はたまたま林檎酢です)、油はあればエキストラ・バージン・オリーブ・オイル、塩はこだわりのなんとか岩塩、などと言い始めると腰が重くなるので、米酢、サラダ油、食卓塩ででもお試しいただきたいと思います。個人的に、量はトマト1、玉ねぎ1/2、ピーマン1/2、程度で、酢と油はタップリ目で作っています。
材料6品と出来上がりが勢ぞろい。見えにくいですけど小皿には岩塩が盛ってあります。
このまま食べてもそれなりに涼し気な夏のサラダですね。ところで本場カディスでは焼き魚の添え物としても活躍しています。とくにカディス名物“焼き鯖”には立ち位置としては“おろし大根”に匹敵するくらいの必須アイテムです。日本では、サンマの塩焼きはご飯にぴったりのおかずですが、おろし大根の代わりにこのピリニャーカをサンマに添えれば一気にバゲットとワインが似合う小洒落た地中海料理に早変わり?
カディス名物“焼き鯖のピリニャーカ添えCaballa asada com piriñaca
この単純この上ないピリニャーカ・サラダを基にして様々なバリエーションがあります。キュウリ、オリーブ、ゆで卵、魚介類、や風味付けのパセリ、ニンニク、ケッパーなどを参加させたマリネ・サラダ料理になりますね。
〇“ガスパッチョGazpacho”
トマト多めのピリニャーカにキュウリやパンを足して水を加えてニンニクやクミンを添加し、ミキサーに掛けて冷やせば前述した本家の“ガスパッチョ”。
〇”ウエバス・アリニャーダスHuevas aliñadas“
タラコのピリニャーカ和え。Aliñadas アリニャーダスとはドレッシングで合えた、とか着飾ったとかの意味があります。言うなれば“おめかしタラコ”。 スペインでは茹でたタラコを使いますが、もちろん焼きタラコでも問題ありません。
〇“エンサラーダ・カンぺーラEnsalada campera”
茹でたジャガイモや、茹で卵、オリーブ等をピリニャーカに加えてボリュームを出します。カンぺーラとは田舎の、とか田園の、という意味です。
田舎サラダ。オリーブの代わりにピクルスとかラッキョウでも合いそうですね。
〇“サルピコン・デ・マリコスSalpicón de maiscos ”いわば魚介と野菜のマリネ。
エビ、タコ、イカ、ムール貝等々の魚介類をピリニャーカに適当に混ぜ込めば立派なタパス料理。ご近所バーで出てくるお酒の“アテ”にはお手軽にカニカマを投入するのも定番です。ちなみサルピコンsalpicón には英語で言うミンスmince, 細かく刻んだとの意味があります。
世界を放浪した作家の壇一雄氏はその著書『檀流クッキング』でご自身が実際に調理した和洋中124品の料理を紹介なされています。一時期ポルトガルにもお住まいになっていた経験がありスペイン・ポルトガル料理も登場する中で、スペインの北部、サン・セバスチャンの海産物酒場で召しあがった“スペイン酢ダコ”、まさに“サルピコン・デ・プルポSalpicón de pulpo”とも呼べる逸品を再現して掲載なされました。簡単に言えば前出”ウエバス・アリニャーダスHuevas aliñadas“のタラコをタコに置き換えた物ですね。
ポルトガル繋がりで・・・
〇ポルトガルから特別参加 “ガスパッチョ・アレンテジャーノGaspacho alentejano”
スペインと国境を接するアレンテージョ地方の古都エボラ Évoraで頂きました。
その時の印象はピリニャーカに水と氷を加えただけのようなスープでした。スープと呼ぶのもおこがましい、一見水没したみじん切り野菜状態です。もしかしてキュウリや角切りパンなどが入っていたかもしれません。
これは遠い記憶を頼りに自作した再現版。
味噌汁や吸い物、コンソメに使う様な凝った出汁の類の“うまみ”は皆無ですが、その多くを語らない朴訥な潔さが焼けつくような暑さの中ではかえって心地よく、素材の野菜、酢、油、塩、そして氷水の清涼感を味わう絶妙な一品となっていました。ここに冷や麦でも投入すればまさに地中海式食事と和食のコラボレーションかな・・・、などと猛暑と外出自粛の影響で妄想が広がる真夏のマドリードより。