• 2021.10.20
  • 二人のモナ・リザ
6年前の春、このコーナーで絵画作品を手で触れて鑑賞できるという風変わりな展覧会についてお知らせしました。『モナ・リザに触れる?』https://kc-i.jp/activity/kwn/yamada_s/20150409/です。
その記事に書いたプラド美術館所有のモナ・リザの模写作品に関する研究の一端が今回展覧会という形をとって公開の運びとなりました。

『Leonardo y la copia de Mona Lisa. Nuevos planteamientos sobre la práctica del taller vinciano』
『レオナルドとモナ・リザの模写。 ダ・ヴィンチ工房の仕事について新しいアプローチ』
会場 国立プラド美術館・マドリード
会期 2021年9月28日(火)~2022年1月23日(日)
プラド美術館 展覧会紹介HP https://www.museodelprado.es/en/whats-on/exhibitions

 2012年パリのルーブル美術館で開催された展覧会
『La Sainte Anne, l’ultime chef-d’œuvre de Léonard de Vinci』
『聖アンナ、レオナルド・ダ・ビンチ最後の傑作』
の為にプラド美術館所蔵のモナ・リザの模写の出展が求められた際、赤外線反射法等の技術を駆使して作品の精査をしたところ、黒く塗りこめられた背景にルーブルにある本家モナ・リザと同じ風景画が発見され、黒い部分を取り除き、描かれた当時の姿に戻されました。


写真1

写真1.はこの展覧会のパンフレットで左手が修復前、右手が黒い背景を取り払った修復後の姿です。

この作品はすでに1666年にはマドリードの王宮の絵画目録に登録され、1819年プラド美術館開館時から展示されていましたが数あるモナ・リザの模写の一つという程度の評価でした。しかし表面下の画像が可視化されて作品の制作過程まで見えてきて、比較すると原画が描かれていく過程が修正部分も含めて、模写も同じプロセスをたどっていることが判明、同時進行で制作されていたのが明らかになったのです。

という事は子弟が同じテーマの作品を同時進行で描いた別作品ともいえるかもしれません。また模写に使用されている顔料のラピスラズリや、支持体のクルミ材など高価な画材をみても一つの独立した作品としての注文制作を工房の主催者であるレオナルドの許可と監修の下で行ったのでしょう。


写真2の1


写真2の2

写真2の1.はオリジナルと模写作品です。
写真2の2.は赤外線反射法を使用して比較した画像です。出来上がった作品の表面下になにが描かれているのかが観察できるのでこの模写作品が完成後の原画を写し取っただけのものではないと分かります。

現時点でこの模写作品を描いた画家の名前は明らかになっていませんが同じ画家が手掛けたとされる作品は、前述のルーブル展でダ・ビンチ最後の傑作として取り上げられた聖アンナと聖母子を模写した作品、および絵画競売史上いまだに最高値の記録が破られていない救世主の模写作品です。


写真3


写真4

写真3.は聖アンナと聖母子の模写(Hammer Museum所蔵)です。写真4.は今回の展覧会にも出品されている救世主のガナイ版模写(個人所蔵)です。作品の制作過程を精査するとこれらの三点は同じ手で描かれたという結論に達するそうです。


ここでランキングとかお金の話を始めるのは如何なものかとは思いますが、以前に書いた世界最高額生ハムの記事といい根っからの噂好きなので、今回の最高値絵画にも興味がわいて調べてみると、レオナルド・ダ・ヴィンチ作の救世主が2017年クリスティーズ社のニューヨーク競売場で落札された値段は4億5千万ドル、円換算で508億円だったそうです。2015年5月の時点で競売史上最高落札額はピカソの作品でその額は215億円でしたから一気に2倍以上に膨れ上がったのですね。
https://kc-i.jp/activity/kwn/yamada_s/20150612/


写真5


写真6

落札者はサウジ・アラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子でルーブル・アブダビ美術館に展示予定とのことですが、現在は写真5.の皇太子所有の豪華クルーザー Serene号内に飾られているという噂がもっぱらです。この船、全長134m、ヘリポートや12のVIP招待用客室、乗組員52人分の船室、なんとピザ用薪窯まで備えているそうです。

このウルトラ・スーパー・デラックス船の値段が5億ユーロ、2014年当時の換算率で670億円だそうですので、現在乗船中と思われるダ・ヴィンチの名画と合わせて、1178億円が世界の海を航行しているんですね。写真6.は多分完璧に温度・湿度がコントロールされたクルーザー内の一等席に鎮座ましましていらっしゃるであろうレオナルド・ダ・ヴィンチ作救世主Salvator Mundiです。イスラム教では偶像崇拝が戒められていると伺っておりますので、この異教の神の肖像画の存在と信教との整合性は?などと言い始めるのは下種の勘繰り、または余計なお世話かな。

ちなみに2019年、ルーブル美術館で没後500年を記念して開催されたダ・ヴィンチ展への出展が要請されたのですが叶わず、実際に展示された救世主はこの写真6.のオリジナルではなく現在プラド美術館に展示中の写真4.のガナイ版模写作品です。

特派員

  • 山田 進
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

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