一方、カフェとは呼ばれずにバールと呼ばれているイタリア。ミラノに移り住んでから、パリで愉しんだようなカフェでの過ごし方はしなくなりました。フランス人とイタリア人のカフェテリアの利用の仕方が違うからなのだ、と思います。
コワーキングスペースが流行っている今日、私たちは興味深い時代に生きていると思います。新しいプロジェクトやビジネスが、これらのコワーキングスペースから生まれて発展していくことを思うと、たとえ自分が発足者でないにしても、何か面白い活動に携わる機会があるような気がしてワクワクします。
ミラノにもコワーキングスペースが増えてきているところで、知らずに足を踏みれると、本屋さん?バール?オフィス?カンファレンススペース?と一瞬、把握できない正体不明なものに出会った気がします。
その中で、過去の芸術家たちではなくて、現在の芸術家たちが足しげく通いたくなるようなスペースが4年前にミラノにオープンしました。ミラノの閑静な住宅街にある一見、普通の住居の門を潜ると、風情のある中庭が気持ちよい歓迎をしてくれます。そしてお店の中に入ると、カフェテリアスペースとソファが並んだ広い空間に包まれ、落ち着いた雰囲気の居間にいるような感じ。芸術家を、お客さんを、観客をアットホームな空気で包んでくれるなんとも言えない心地の良い空間。
MAMUというあだ名で親しまれているこのMagazzino Musicaは、音楽工房でありながら音楽家でない人も通いたくなるような魅力を秘めている場所。
まるで「よく来たね。君を待っていたんだよ」と話しかけてくるような空間。その快適な空間で、芸術家たちはまるでリラックスした状態で、コンサートやミニオペラを披露し、文学者たちは詩、歌、作品を読み上げ、コーヒーやワインを飲みながら意見を交わしています。
奥に進むと、演奏家がこよなく愛する紙に印刷された楽譜売り場。音楽家でない人も思わず楽譜を買いたくなるような気にさせる楽譜がズラリ。
電子機器が普及して色々な方面で便利になった現代でも、紙が持つ独特の味わいに執着する芸術家たち。
破れた楽譜、ヨレヨレになって譜面台から落ちる楽譜、書き込みの上に書き込みで読みづらくなった楽譜、風がひと吹きちょっと吹いたら舞い上がって飛んで行ってしまう楽譜、埃を貯めながら本棚に収まっている楽譜など、紙の楽譜には欠点が色々。私も、タブレットや電子楽器などの便利さを利用しつつも、心の何処かでは、紙の楽譜を使うときの安心感や、楽器職人の手で生み出された楽器を奏でる時のその手応えには変えられないと思っています。
さて、このコージーなお店は、ここで終わるわけではありません。
さらに先に進むと、今度は楽器を作る職人さんの工房があります。自分の楽器を持っていくと、職人さんたちは楽器のメンテナンスもしてくれます。
そして、さらに奥に進むと、楽器の販売コーナー。1世紀2世紀前の有名な楽器職人の楽器から、現在活躍する楽器職人までの様々な楽器が陳列されていて、試奏ができます。音楽家も、詩人も、文学者でない人も、演奏家でない人も、自分の好きな距離やスタイルで音楽や芸術に触れる場所として、愛され続けることでしょう。
私もあなたも、そこに一コマを刻む一人となるわけです。