• 2020.07.15
  • 空洞パン
パリからミラノに移住後に私の習慣が変わった内のひとつには、朝食前にパン屋に行く事。

パリに住んでいた頃には、起き上がって洋服に着替えてから、顔も洗わずに寝ぼけ眼のまま近所のパン屋にまっしぐら。バゲットの半分の大きさが私にはぴったりのサイズ。焼きたての香ばしい半バゲットを買って家に着いたら、バターとジャムを塗って朝ごはん。たったこれだけで幸せ。フランスでバゲットを食べたことがある人なら、ベッドから私を引き出すほどのこの魅力をわかってもらえるでしょう。次の朝は、残りのバゲットを。1日経過すると食感が明らかに落ちているのですが、それでもまだまだイケる。


イタリアも、パン文化の国。でも、私を毎朝ベッドから引き出すほどの魅力は無く、朝方に買いたての美味しかったパンが夕方には不味くなっていたり。イタリアでもバゲットと呼ばれるフランス風パンは売られていて、買ったばかりのバゲットにかぶりつくと満足感は得られるのですが、不思議な事に数時間後には美味しいとは言えない代物に変わっていることも。うっかり忘れて放置した次の日にはカチコチに固くなっていて、そこで貧乏性を発揮して頬張った日には口の中が切り傷だらけ?!

イタリアは塩抜きバターが主流なので、その味に慣れるまでは間の抜けたような味だなぁ、と思いながらパンに塗っての朝ごはん。そうそう、パリではクロワッサンも時々朝ごはん用に買ったもので、それがなんと美味しかったことか。イタリアでの朝ごはんにもクロワッサンが登場しますが、これも慣れるまではその甘さが気になったものです。

お隣同士にも関わらずイタリア人とフランス人の味覚の大きな違いをたったひとつのパンの中に見出せるものなのです。


違いと言えば思い出すのが、ブリオッシュもそう。私がパリ在住の当時、ミラノ住まいの日本人の友人を訪問するにあたって、頼まれてパリから様々な種類のパンを買って行きました。バゲットは勿論、クロワッサン、パン オ ショコラ、レーズンパンなどをバッグから取り出して紹介しました。そしてブリオッシュの番。
ブリオッシュは、牛乳、バター、卵がたっぷり使われていてふんわりに仕上がった甘めのパンだと言うと、、、


友人は、何か腑に落ちない表情。

ミラノでは、クロワッサンをブリオッシュと呼んでいると言うのです。私がパリから持ってきた大きな塊とは全く様相が違うと首を傾げていました。

私がミラノに移住したその後バールに朝食をしに行くと、チョコレートクリーム味、ジャム味、クリーム味など色々なクロワッサンがカウンターに積まれていて、確かにクロワッサンではなくてブリオッシュと書かれています。イタリア人は、朝食に頂くクロワッサン、菓子パン、ケーキなど全てをブリオッシュとまとめて呼んでいるとも聞きました。

ところでミラノに移住して間もない頃、ミラノのパンに騙されたことがあります。今となっては、滅多に見つけられない幻のパンとなりつつあるミケッタ。凸凹の部分がいい感じの焼き色に仕上がった丸っこいパンをパン屋で見つけて、私の2日間の食事のお供に丁度良さそうな大きさ。指差して1つ注文すると「ハイ、ミケッタ1つね」と紙袋を渡された時の意外な手応え。とても軽かったから。

帰宅して、早速パンを切ってみると、中は空洞、、、

これではたった1食分のお供のパン。


ミケッタは中が空洞のミラノの代表的なパンなのです。ウィキペディアによると、湿度の高いミラノではパンの痛みが速くカビが生えやすかったことから、空洞パンが生まれたとか。

が、最近は、滅多に見かけなくなりました。わかっていても中が空洞だと損したような気分になるから、不人気なのかしら?


いいえ、損した気分になったのはパン屋の方。軽量でパン屋の中で1番安いこのミケッタは、儲けが労力に見合わないので消えつつある商品。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

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