• 2026.06.24
  • 肩書よりも
イタリアの若者たちを見ていると、最近、「仕事」や「就職」に対する感覚が、少し前とは変わってきているように感じます。もちろん昔から、イタリア人は日本ほど「安定した大企業への就職」を絶対視していたわけではないのですけれど。でも最近は、それ以上に、「自分が納得できる生き方を優先したい」という感覚が強くなっているように見えるのです。

私は仕事柄、国営テレビ局へ出入りすることがあり、行き帰りにタクシー券をもらいタクシーを利用します。そのため、道中タクシー運転手さんと話すことが多いです。

ある日、見るからに育ちが良く、礼儀正しく、知的な雰囲気の若い運転手さんが迎えに来ました。雑談の中で「大学では何を専攻していたの?」と聞くと、彼は「法学部です」と答え、しかも、ご両親は二人とも医者だというのです。

「そんな家柄なら、タクシー運転手になることを、ご両親はかなり反対したのでは?」と聞くと、彼は苦笑いしながら「ええ、大変でした」と答えました。

同じ法学部を卒業した友人たちの中には、就職先が見つからない人も多い中で、たとえ専門職に就けたとしても、実際にはコピー係や雑務ばかりで、自分が学んできたことを生かせていない人が多く、不満を抱えながら働いている人も多いとか。そんな姿を見て、「それなら、自分は好きな運転を仕事にしたい」と思ったのだそうです。

もちろん、親を説得するのは簡単ではなかったらしい。でも最終的には、「自分で納得して選んだ人生だから」と理解してもらえたそうです。

この話を聞いた時、私は「ああ、時代が変わってきているのかもしれない」と思いました。

少し前までは、「せっかく良い大学を出たのだから、それに見合う職業に就かなければならない」という空気が、今よりもっと強かった気がするのです。けれど最近の若者たちは、「肩書き」よりも、「自分がどんな毎日を送りたいか」を重視しているように見えます。

知人の息子さんは、イタリアでもトップクラスの経済学部を卒業しました。普通なら、そのまま大企業や金融関係へ進みそうなものです。が、ある日突然、「画家になりたい」と言い出したそう。しかも、それまで絵を描いていたわけでもないのだとか。それなのに突然絵を描き始め、今ではギャラリーに作品を展示してもらっているというのです。

また、調理師専門学校に勤めている知人は、学校説明会でその学校に見学に来た学生たちと接する機会があるのですが、「最近の若者は不思議だ」と笑っていました。

というのも、その説明会には、本来なら普通学科の専門分野で十分将来性がありそうな学生たちも来るそうです。ある日突然、「菓子職人になりたい」と思い、専門学校の説明会に現れるのだそうです。

この“突然変異”の中に、現代のイタリアらしさを感じます。

学歴や肩書きだけでは、人生の満足感は得られない。「自分がどんな時間を生きたいか」を大切にする若者が、イタリアでは確実に増えているように感じます。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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