アムステルダム市の貧困防止対策|マルタ・ ヒッキー|ナレッジワールドネットワーク|アクティビティ|ナレッジキャピタル

  • 2016.06.14
  • アムステルダム市の貧困防止対策
ヨーロッパにいれば、旅をして異なる生活スタイルに触れることは比較的簡単です。中学や高校の生徒が学校の旅行でドイツやフランス、イタリアに行くことも珍しくありません。私の心にもそうした旅の素敵な思い出がたくさん残っていますが、いまだに忘れられない衝撃的な経験もまたありました。これまでに訪れた他の都市とアムステルダムの街の大きな違いのひとつは、貧困という問題のあり方です。私はかつてケルンの街で、赤ちゃんを連れた、とても不潔な身なりをした女の人が聖堂の階段で物乞いをしている姿を、クラスメートと共に目撃しました。これには心底ショックを受けたものです。それまでアムステルダムでも、アルコールや薬物の依存症らしく見えるホームレスの人たち(大半は男性)が通りを歩いているのは見たことがありましたが、小さな赤ん坊(!)を連れた女性というのは初めてだったのです。彼女の着ている服も顔も手も、垢のせいでほとんど真っ黒でした。その日は彼女の他に、物乞いをする人たちを少なくとも5人は見ました。私はこのときから、オランダは福祉国家として成功している国にちがいないと考えるようになったのです。今回の投稿では、貧しい人々を救済するためのアムステルダム市の制度についてご紹介したいと思います。

ここ数年、制度と義務の変革について論じられる場で、福祉国家としてのオランダがしばしば主題としてとりあげられています。私の幼少期から大学時代にかけて、オランダが福祉国家の成功例であったことは間違いありません。例えば医療費や薬代は、月々の保険料の支払いを別として、通常は無料でしたし、カレッジや大学の学費も、卒業を条件に全額が公費で支払われました(卒業しなかった場合、学費と同じ年額の約1800ユーロがローン扱いとされました)。それが現在は、医療費の支払いが増え、卒業を条件とした公費負担もなくなっています。国民、とりわけ低所得の人々が、この変化による影響を受けているのは言うまでもありません。

もちろん、オランダは豊かな国で貧困率もヨーロッパでは最も低い方ですから、オランダが貧困と関連付けて語られることはあまりありません。しかし、10世帯につき1世帯は家計のやりくりに苦しんでいると言われ、これらは多くの場合なかなか可視化されません。全体のうち1割の家庭が、低所得世帯なのです。つまり、家賃を払ったり、栄養価の高い食品や子供が学校で必要とするものを買ったりするだけの所得が十分にない家庭が存在するということです。福祉制度が変わってきてはいるものの、オランダ国民の社会的・経済的福利を支援する多くの制度や取り組みは、ありがたいことにまだ十分に頼れるものとなっています。日本での同様の制度に関する知識はありませんが、オランダでは医療や教育、社会保障の基本水準が担保されているということが、私にとっては常に大きな心の支えになっています。

アムステルダム市は、“Pak je kans(「チャンスを掴め」の意味)”と呼ばれるプロジェクトを展開して、市内の低所得世帯に働きかけ、それぞれの状況に適した制度に関する情報を提供しています。利用可能な制度には、健康保険料の減免、身分証明書の無料発行、中学・高校に通う子供に対するノート型パソコンの無料支給、公共交通機関の無料利用、18歳以下の子供の学費の還付、美術館・演劇・イベントの入場料の無料化または割引、身体障害や慢性疾患による実生活上の困難に伴う出費をカバーする経済支援、特殊な移動手段を必要とする人のための経済支援、デイケア利用料金の5%割引、割安なローン、動物病院の一回分の無料診察、子供用のおもちゃや衣類のクーポン、市民税の免除、教育費の貸付け、18歳以上の市民の追加分の学費貸付け、フードバンク、急な収入減に対応する一時的経済支援、洗濯機・冷蔵庫の故障時の特別基金、受給年金が低額な高齢者のための経済支援、家賃補助、育児支援、育児給付、医療費の助成、スポーツをする子供のための経済支援、子供の絵画・ダンス・音楽のレッスン費用の助成などがあります。

このように、アムステルダム市は経済的に厳しい状況にある市民のために手厚い援助を行っているのです。低所得によって厳しい生活を余儀なくされる人々も、こうした支援を利用することで多少なりとも負担が軽減され、子供たちはのびのびと生活や勉強に打ち込むことができるでしょう。教育と、将来的により良い収入を得るための機会を手に入れることは、大きな意義があるはずだと思います。

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特派員

  • マルタ・ ヒッキー
  • 年齢巳年(へび)
  • 性別女性
  • 職業教師、イラストレーター

アムステルダムで生まれ育ち、研究のため日本に2年半住んだことがあります。オランダ―日本間の文化的なつながりやコミュニケーションにとても興味があります。その他、自転車に乗ることや、教師やイラストレーターとしての仕事、友達と新しいカフェに行ったりすることを楽しんでいます。2014年にライデン大学を卒業し(アジア/日本研究修士)、現在は日本人向けのオランダ語学習教材を作っています。この学習教材では両国間の文化的な違いも紹介しています。

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