「えっ、それ、本当に名前ですか?」
ペルーでは、銀行の窓口の待合室で、自分の番が来ると画面に名前が表示されるシステムを使っているところがあります。私は自分の順番を待ちながら、画面に表示される名前を何気なく眺めていました。
すると、日本人の私には「なんだか不思議な名前だなあ」と思う名前が次々と現れます。
いつの頃からか、私は密かに「今日はどんな名前があるかな?」とディスプレイを眺めることが、生活の中の小さな楽しみになりました。
例えば、DOMINGO(ドミンゴ)。
スペイン語で「日曜日」という意味ですが、ペルーでは昔から男性の名前として使われています。「こんにちは、ドミンゴさん」と言われると、私にはどうしても「こんにちは、日曜日さん」と聞こえてしまいます。
ところが、調べてみると、ちゃんと理由がありました。
Domingoは、キリスト教と深い関係を持つ名前なのです。
スペイン語の「domingo(日曜日)」は、ラテン語で「主の日」を意味する言葉に由来します。キリスト教では、日曜日はイエス・キリストの復活を記念する特別な日。そのためDomingoは、単なる曜日の名前ではなく、信仰と結びついた人名として使われてきました。
スペイン語圏では、Santo Domingo(サント・ドミンゴ)という地名もよくあります。Santoは「聖なる」という意味なので、「Santo Domingo」は「聖ドミンゴ」。13世紀のカトリック修道士、聖ドミニコに由来する名前です。
つまり、私には「日曜日さん」に聞こえる名前も、スペイン語圏では歴史と宗教を持った、れっきとした人の名前なのです。日曜日には変わらないのですが……。
「5月さん」に「頭さん」!?
そして、ペルー人に「日曜日さんがいるなら、土曜日さんや水曜日さんもいるの?」と聞いてみました。すると教えてくれたのが、MAYO(マヨ)という姓。
Mayoはスペイン語で「5月」という意味です。
私の感覚だと、「5月さん?」と、つい二度聞きしてしまいそうです。
さらに、「ほかにも衝撃的な名前はある?」と尋ねてみると、CABEZA(カベサ)という姓もあると教えてもらいました。CABEZAはスペイン語で「頭」。日本語にそのまま訳すと、「頭さん」です。私はまだ実際にお会いしたことはありません。もし、いつか「CABEZAさん」に遭遇したら、そのときはまたご報告したいと思います。
「ペルー」という名前の人がいる!?
ペルーの国立身分証明・戸籍登録機関であるRENIEC(レニエック)は、ときどき実際に登録されているユニークな名前を紹介しています。その中で私が一番驚いたのは、なんとPERÚ(ペルー)という名前。
RENIECの発表によると、「Perú」という名前が実際に登録されています。「ペルーさん」です。さらに、Patria(祖国)という名前、Independencia(独立)という名前も。
「祖国さん」「独立さん」です。かなりインパクトがありますよね。
しかも、国への思いが込められた名前はこれだけではありません。
Bandera(国旗)という名前の人までいます。本人が自分で名付けたわけではありませんが、名前を聞くだけで、「この人、ペルー愛強いな〜」と思ってしまいます。
「ドル」や「ユーロ」まで名前になる
ここからは、さらに驚きます。RENIECが過去に紹介した名前の中には、なんとDólar(ドル)、Euro(ユーロ)があります。
さらに、Éxito(成功)、Riqueza(富)、Feliz(幸せ)。
「ドル」「ユーロ」「成功」「富」「幸せ」です。
日本人なら、「将来お金持ちになってほしい」「幸せになってほしい」という願いを込めて、「富」や「幸」のような漢字を名前に使うことはあるかもしれません。
でも、「ドル君」「ユーロ君」となると、かなりダイナミックというか、直接的ですよね。
そして、さらに面白いのが、Silencio(沈黙)。「沈黙」という名前です。
一体どんな願いを込めて、この名前をつけたのでしょうか。ちなみに、ペルーは生活音が日本に比べてものすごく多いので、私はペルーで「沈黙」を感じたことが一度もありません。
そして、なんとDirector(監督・責任者)、Presidente(大統領・社長・会長など)という名前まで登録されています。
ここまで来ると、「ペルーでは、名前にできない言葉はないのでは?」と思ってしまいます。
では、普通のペルー人はどんな名前?
ここまで変わった名前を紹介すると、「ペルー人はみんなそうなの?」と思われるかもしれません。もちろん、そんなことはありません。
ペルーでよく耳にするのは、José(ホセ)、Juan(フアン)、Carlos(カルロス)、Luis(ルイス)。
女性なら、María(マリア)、Rosa(ロサ)、Ana(アナ)、Carmen(カルメン)などもおなじみです。
これらはスペイン語圏で広く使われている名前で、ペルーにもたくさんあります。
特にMaríaやJosé、Jesúsなど、キリスト教や聖人に由来する名前が多いのは、スペインによる植民地時代やカトリックの影響が大きいからかもしれません。
つまり、ペルー人の名前を見ていると、スペインから伝わった文化や宗教の歴史まで見えてきます。
アンデスの名前は、太陽や月!?
ところが、ペルーにはスペイン語だけではなく、先住民文化に由来する名前もあります。
例えば、ケチュア語のIntiは「太陽」、Killaは「月」、Chaskaは「明けの明星」、Amaruはアンデス神話に登場する「蛇」を意味します。
しかも、これらは単なる珍しい名前ではありません。
ペルーでは今でも、太陽や月、星、自然などを感じさせる名前が使われています。
名前には、家族の願いが詰まっている
「ペルー」「祖国」「独立」には国への思い。
「成功」や「富」には、子どもの成功や豊かさを願う気持ち。
「幸せ」には、幸せな人生を送ってほしいという願い。
そして「太陽」や「月」には、アンデスの自然や文化への思い。
あまりにもダイレクトではありますが、名前には、その家族が子どもに託した願いや、その土地で受け継がれてきた文化が込められているようです。
日本人は漢字を使うので、一つの漢字にいろいろな意味を込めることができます。例えば、「幸せになってほしい」という願いも、「幸」という一文字で表現できます。
一方、ペルーでは、その願いをそのまま名前にしてしまうこともあります。だからこそ、日本人の私には「えっ、これが名前なの?」と思うような名前が生まれるのかもしれません。
そして、ペルー人からよく「あなたの名前はどういう意味なの?」と聞かれます。
私の名前は「ショウコ」なのですが、日本語の漢字を使わずに、その意味をスペイン語で説明するのはなかなか難しい。
そこで、「日本語には漢字があってね。漢字にはそれぞれ意味があって……」と、名前の話から、いつの間にか「日本語には漢字とひらがなとカタカナがあってね」という、日本語講座が始まることもあります。
名前について話しているだけなのに、気がつけば日本文化の説明をしている。
これも、海外で暮らしているからこその面白い経験です。
最初は「日曜日さん?」「5月さん?」「頭さん?」と驚いていた私ですが、名前を調べていくと、その一つひとつに歴史があり、家族の願いがあり、文化があります。それは日本も同じなのかもしれません。
外国語だから不思議に聞こえるだけで、その名前をつけた人にとっては、大切な意味を持つ名前。そう思うと、銀行の画面に表示される名前を見るのが、ますます楽しみになってきます。まだまだペルーには、私の知らないことばかりです。それではこのあたりで、アディオ~ス!
- 2026.10.15
- 「日曜日さん」に「ペルーさん」!?ペルー人の名前が面白い!
