ところが今年は、その当たり前の風景に少し変化を感じました。
2026年のイタリアは初夏から厳しい暑さに見舞われ、何度も熱波がやって来ました。ミラノでも外へ出ると熱気に包まれ、午前中から街を歩くこと自体が億劫になるような日が続きました。「海に行けば涼しい」と思いたくなりますが、今年は海辺も例外ではありませんでした。強烈な日差しの下、昼間のビーチで長時間過ごすことが、必ずしも快適なバカンスとは言えなくなってきたのです。
そんな今年、イタリアでよく目にするようになった言葉が「Coolcation(クールケーション)」です。英語のcool(涼しい)とvacation(休暇)を組み合わせた言葉で、文字通り「涼しさを求めるバカンス」。暑い海辺や都市を避け、標高の高い山や湖、森などで休暇を過ごそうという旅行スタイルです。
イタリア北部に住んでいると、アルプスやドロミテは決して遠い存在ではありません。車や電車で数時間移動するだけで、ミラノの蒸し暑さとはまったく違う空気に出会えます。日中は山歩きや湖畔の散策を楽しみ、夕方になると気温が下がり、場所によっては上着が欲しくなるほど。暑さで眠れない都会の夜とは対照的に、「涼しいところでぐっすり眠れる」ことまで、今やバカンスの魅力になっています。

実際、今年のイタリアでは山の人気が大きく伸びています。夏季山岳観光調査では、山岳地帯への旅行者は約780万人、前年より大幅に増えているそうです。さらに8月の山岳地帯の宿泊数は約1170万泊にも上り、暑さから逃れることが旅行先選びを左右している様子が数字にも表れました。
イタリア人にとって「夏は海」が単なる旅行の選択肢ではなく、ひとつの文化です。毎年同じ海岸へ行き、同じホテルや貸しアパートに滞在し、家族や友人と何週間も海辺で過ごす人も珍しくありません。日本のお盆休み以上に、「8月は仕事を離れて海へ」という感覚が生活の中に根付いているのです。
それが今、「夏だから海へ」ではなく、「暑い夏だからこそ涼しい場所へ」と変わり始めています。もちろんイタリア人が海を嫌いになったわけではありません。ただ、旅先を決める条件に、景色や食事、ホテルの値段と並んで「気温」がはっきりと加わったのです。
日本でも猛暑が当たり前になりつつある今、Coolcationは決してイタリアだけの話ではないでしょう。夏休みといえば海、という私たちのイメージも、いつか「涼しい高原や山へ」に変わっていくのかもしれません。
