• 2017.01.24
  • 心地よく騙される旅をしてみませんか?!
去年の6月からミラノでエッシャー展が開かれ、 行こうと思いながらもうじきお仕舞いになってしまうところです。エッシャーのトリックアートを 見て、幼少の頃、終わりの無い長い長い一本のスパゲッティを食べているような、と同時に完全に終結しているような、子供心に何とも言えない感覚を味わって見入ったものです。

料理と科学が非常に興味深い密接な関係にあるその一方で、芸術と科学の関係は十分に試行されていない分野のようです。それでもトリックアートの場合は、アートと視覚科学の関係が生む騙し絵となります。絵画の遠近法はトリックアートには欠かせない要素で、そのトリックアートの技術は遥か昔から使われていて、イタリアでも由緒ある場所のあちらこちらに見られます。

ミラノの町の中心にあるショッピング街、トリノ通りには流行最先端の靴屋や洋服屋に挟まれて、片身狭そうに建っている教会があります。気がつかずに通り過ぎてしまうくらい目立たなく特徴が無い建築様式なのです。この教会の裏側に面している道を私はミラノに住んで20年間幾度となく通っていたので、小さな教会の可愛らしい後ろ姿を見つめ、何と言う教会なのだろうと思いながらも素通りしていたものでした。教会の表側の方は完成されず放っておかれ数百年後に他の作者に仕上げてもらったので、裏側とは違う時代で違う様式となっているそうです。なので裏側を見続けていた私は、まさか表側のあのサンタ マリア プレッソ サティーロ教会だとは実は思ってもみなかったのでした。表と裏の不一致で、私はすっかり騙されていたわけですが、この教会を作ったイタリアを代表するルネッサンスの建築家ブラマンテが施したトリックが、教会の内部にあります。ミラノにいらしてこの教会を訪れる際には、皆さん、祭壇の奥に続くアーチに注目しましょう。

建築家ブラマンテがこの教会を建てる時に、どうしても彼のプロジェクトどおりには行かない事情が出てきました。それは 教会の裏に通っている私が通いなれた通りと教会の奥行きに関係しています。交渉を何度も重ねたのでしょう。しかしながら許可をもらえなかったブラマンテは、何日間も考え込んだにちがいありません。考えあぐねた末に出した彼の解決法は、ダ ヴィンチのあの有名な壁画「最後の晩餐」にも影響を与えた、とさえ言われています。
ローマにあるサン イニャツィオ教会の天井にも注目。そこは建設中における予算オーバーと近くの住民からの不満の解決法としてのトリックだったとか。その他、独特で見応えのあるものではヴィチェンツァの町にあるオリンピコ劇場。
ヒントは、3D効果。

さてと「ツアー イタリア歴史的建造物のトリックアート巡り」を企画しなくっちゃ!

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教会の表側

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教会の裏側

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地に、ソロコンサートアンサンブルの編成で演奏活動の傍ら、演劇、画像、舞踊やライブ演奏を組み合わせたマルチスタイルの舞台プロデュース。

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