• 2026.08.31
  • 休暇中も成長しなければいけない時代
最近、「スキルケーション(Skillcation)」という言葉があるらしいのです。スキル(Skill)とバケーション(Vacation)を合わせた造語で、休暇中に新しい技術や知識を身につける旅、という意味だそうです。
つまり、休みの日も成長しろ、ということです。
私にとって休暇といえば、海辺で寝転び、本を読み、ジェラートを食べ、夕方になったら「今日は何もしなかったな」と思いながら、少し日焼けした腕を眺めるものだと思っていました。ところが、今はどうやら違うようです。
最近、旅先でよく目につくのが、「バジリコのペストソース作り体験」や「古代流編み籠体験」といった体験型アクティビティです。
どうやら、何もしない休暇では物足りない時代になったらしい。
例えば京都へ行くなら、お目当ての抹茶パフェを食べて終わりではダメらしい。禅寺で座禅を組み、自分の内面と向き合うところまでがセットとか、スイスへ行くなら、緑の丘から湖を眺めて満足してはいけません。ヤギの乳を搾り、チーズを作り、「大地とのつながり」を取り戻す体験までして、ようやく旅が完成とか。
もはや旅行というより、軽めの修行です。
しかも不思議なことに、日常生活ではほとんど役に立たなそうなことほど、旅行先では人気の"修行"だったりします。それが「本当の自分を取り戻す旅」として語られるのではないでしょうか。たしかに、休暇明けに同僚から「スパでサウナに入って、あとは昼寝してたよ」と聞くより、「北欧でフォレイジング(野生のベリーやキノコなどの食材採取)を体験してきた」と聞いたほうが、「へぇ、それ面白そう!」と思ってしまうのは事実です。Instagramには最高の投稿になるし、LinkedInでは自己PRにも使える。「すごい!」「私も行ってみたい!」というコメントが並び、フォロワーも増えるかもしれません。
旅そのものよりも、「旅で得た成果」のほうが価値を持つ時代なのかもしれません。
そう考えると、これは休暇だけの話ではありません。歩けば歩数が表示され、眠れば睡眠スコアがつき、運動すれば消費カロリーが記録されます。本を読めば読書時間、語学を勉強すれば連続学習日数。私たちの日常は、気づけばさまざまなアプリによって数字で評価されるようになりました。
もちろん、数字には良い面もあります。努力が見えやすくなり、健康管理にも役立ちます。でも、その数字に背中を押され続けているうちに「今日はなんとなく幸せだった」という、数字にならない感覚を少しずつ置き去りにしているのかもしれません。
近年の私たちは、休暇にまで「成果」を求め、数字で自分を測りすぎているのかもしれません。
「何もしないこと」
実は、それがいちばん難しい時代になってしまったのかもしれません。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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