• 2026.08.17
  • 人脈づくり以上の魅力とは?ナレッジキャピタルを4度訪れてわかったこと
私はこれまでに4度、大阪にあるナレッジキャピタルを訪れる機会に恵まれました。いずれも、シカゴのデポール大学(DePaul University)でビジネスを専攻する学部生と大学院生合わせて約20人を連れての訪問でした。訪れるたびに、言い方は異なるものの誰かが決まって同じ質問をしてきます。「世界のどこかで、これに似た場所を見たことがありますか?」


私はこれまでに大学やインキュベーター(起業や事業の創出をサポートする団体)、企業のイノベーションセンター、スタートアップ拠点、リサーチパーク、起業支援のエコシステムなど、さまざまな場所を訪れてきました。ナレッジキャピタルは、それらすべてに通じる特徴を持ち合わせていますが、どれにも当てはまらないようにも感じられます。ナレッジキャピタルを4度訪問して毎回素晴らしい時間を過ごしたにもかかわらず、この組織をこれほど際立った存在にしているのは何かを正確に説明できずにいます。

実際、これから訪問する学生たちにナレッジキャピタルをどう説明するかには頭を悩ませてきました。初めて学生たちを大阪に連れて行ったときは、「イノベーションセンター」と説明していました。現地に着くまでは、これが妥当な説明であるように思えたのです。その後、「スタートアップ拠点」と呼ぶようになり、さらに後には「産学連携のプラットフォーム」という表現を使ったこともあります。どの説明も間違ってはいないのですが、どれもナレッジキャピタルの本質を的確に捉えているようには感じられませんでした。

何度か訪れるうちに、ようやく自分の考え方が間違っていたことに気づきました。ナレッジキャピタルの本当の価値とは、既存のカテゴリーとカテゴリーの間に存在していることにあるのに、私は既存のカテゴリーに当てはめようとしていたのです。戦略の分野では、「ホワイトスペース」という言葉がよく登場します。ホワイトスペースとは、確立された業界、ビジネスモデル、あるいは組織形態の間に生まれる空白地帯のことです。思い返すと、ナレッジキャピタルは、私がこれまで出会った中でホワイトスペースを最もよく体現した例の一つかもしれません。

ここを一言で説明するのが難しいのは、いくつもの異なる世界が交わる場所に位置しているように見えるからです。大学の研究センター的な要素だけでなく、人々が集い交流する場としての側面もあり、スタートアップや起業家による活動、企業のイノベーションへの取り組み、教育プログラム、地域コミュニティのイベントなども開催されています。このうちのどれか一つだけでこの場所を定義することはできません。それらすべての要素を併せ持つ場所がナレッジキャピタルなのです。


訪問を重ねるほど、これらの要素が意図的に組み合わされていると確信するようになりました。ナレッジキャピタルは大阪屈指の起業支援組織を目指しているわけではなく、大学の研究センターやスタートアップ・アクセラレーターになろうとしているわけでもありません。むしろ、そうした要素の中から最も優れた部分を取り入れ、異なる背景を持つ人々が、本来なら実現しなかったであろうと思われる形で交流できる機会を創り出しているのです。
一見単純な目標に思えるかもしれませんが、私はそれを実現するのは非常に難しいと考えるようになりました。

米国では、ネットワーキングは通常、特定の目的と結びついています。仕事や顧客、投資家、ビジネスパートナー、あるいはその他の明確に定義された成果を得るために、人々はイベントに参加します。もちろん、この考えが悪いわけではありません。大多数の人は忙しい毎日を過ごしているので、目的意識のあるネットワーキングは目標の達成に大いに役立ちます。

しかし、私がナレッジキャピタルで印象に残ったのは、多くの交流が異なる出発点から始まっているように見えたことでした。決められた成果を達成することよりも、興味深い対話が生まれる機会を創出することが重視されているように思えました。その違いはわずかなものに感じられるかもしれませんが、実際には大きな差を生みます。ナレッジキャピタルを表す表現として、「おもしろい」という言葉が頻繁に使われています。英語にすると、「interesting」や「curious」に近い意味合いの言葉ですが、これらの英単語では「おもしろい」の本質を完全に捉えることはできません。「おもしろい」には、好奇心と発見する喜びが含まれています。「自分とは異なる考えや人々と関わることで、型にはまらない、予想外の何かが生まれる可能性がある」という考えが反映された言葉なのです。ナレッジキャピタルが非常にユニークである理由は、思いがけない交流から「おもしろい」が生まれるように設計されている点にあります。


私は米国を拠点とするビジネススクールで教鞭をとっているので、学生たちとイノベーション・エコシステムについて頻繁に議論する機会があり、製品やアイデア、テクノロジー、ビジネスモデル、市場機会、競争優位性、起業家精神などについて話し合っています。こうした事柄はどれも重要ですが、ナレッジキャピタルを4度訪れた後、私はイノベーションを支える社会的な土台についてより深く考えるようになりました。アイデアを製品化したり、ベンチャーを企業に発展させたりするよりも先に、私たちには出会い、視点を交換し、互いの思い込みに問いを投げかける機会が必要なのです。ナレッジキャピタルは、まさにそれを実現するために設計されたような場所です。
また、大阪を拠点とする大企業が、ナレッジキャピタルを支援する上で果たしている役割についても、学生たちは強い関心を寄せています。毎回必ず誰かが「なぜ大企業は、すべての対話が目に見える成果を生むわけではない場所に資金を投じるのでしょう?」と尋ねます。投資収益率や業績指標について考える訓練を受けてきた学生たちにとって、それはもっともな疑問です。

ここを何度も訪れ、考えを重ねる中で、私は「ナレッジキャピタルを支える企業は数値化しにくい価値を理解している」という結論にたどり着きました。強いコミュニティは強いイノベーション・エコシステムを育み、強いイノベーション・エコシステムはやがて関わるすべての人に新しい価値をもたらします。すべての会話が成功するスタートアップを生み出す必要はないし、すべての交流がビジネスパートナーシップにつながる必要もないのです。しかし、時間が経つにつれて、こうしたつながりが積み重なって生まれる効果は、壮大なものになり得るのです。

シカゴにも、1871をはじめとする卓越した起業家支援組織や、デポール大学のコールマン・アントレプレナーシップ・センター(Coleman Entrepreneurship Center)を含む、多数の大学関連のイノベーションプログラムがあります。これらの組織は、活気あるスタートアップ・コミュニティの形成に大きく貢献してきました。それでも、私は大阪を離れるときには、ナレッジキャピタルはこうした施設とは若干異なる目的を追求しているように思うことがよくあります。多くのイノベーション組織は、主にベンチャーの成功を支援することに力を注いでいますが、ナレッジキャピタルは人と人とが良好な関係を育むことを支えようとしているように見えます。スタートアップやテクノロジー、コラボレーションは人とのつながりから生まれるものであって、それらを生み出すことだけを目的として関係を築くのではありません。

だからこそ、学生たちから「ほかの場所でこれに似たものを見たことがありますか」と尋ねられるとき、私は今も答えに窮してしまうのかもしれません。世界には、ナレッジキャピタルの活動の一部と同様の取り組みを行っている組織が存在します。より強力なインキュベーターやより大規模なリサーチパークもありますし、もっと豊富な資金を有し、国際的な知名度が高い組織もあります。しかし、これほど多くの機能を備えながら、分類が非常に難しい組織を私はほかに知りません。


ある意味、ナレッジキャピタルの独自性は、世界中のアイデアを受け入れ、親しみやすく起業家精神に富む都市である大阪そのものを映し出しているようにも思えます。さらには、世界中の都市が必要としている何かを反映しているようにも感じます。私たちは、イノベーション・エコシステムの構築やコミュニティの活性化、起業家精神を育む支援、産学のつながり強化のために、多くの時間と費用をかけて議論しています。ナレッジキャピタルは、こうした目標を別々に追うのではなく、同時に追求する方法を示す興味深い実例を提供しているのです。
4回の訪問を重ねても、私にとって「ナレッジキャピタルとは何か」を正確に説明するのは依然として難しいと感じています。奇妙なことですが、そう感じさせることこそが、ナレッジキャピタルの成功を最もよく物語っているのかもしれません。ナレッジキャピタルは、私たちの多くが存在しないと考えている領域に、確かに存在しています。具体的な成果につながるかどうかもわからない会話のチャンスを生み出しながらも、時に重要なイノベーションは人々がただ互いを「おもしろい」と感じるところから始まるのだ、という考えを大切にしているのです。

その学びは、どんなプレゼンテーションや技術デモ、スタートアップのピッチよりも遥かに長い時間に渡って私の中に残っています。そしてそれこそが、この先も引き続き学生たちと大阪を訪れ、ナレッジキャピタルを再訪したいと思う理由なのです。

特派員

  • Dr. Zafar Iqbal
    (ザファル・イクバル博士)

ザファル・イクバル博士は、アメリカ・シカゴにあるデポール大学ドリーハウス・ビジネススクールおよびケルスタット経営大学院のマーケティング准教授です。また、デポール大学の地域イニシアチブ担当副ディレクターも務め、インドにおけるデポール大学の国際化戦略の策定と実行を担当しています。さらに、ドリーハウス・ビジネススクールの統合マーケティング教育学部優等生プログラムの共同ディレクターも務めています。

デポール大学(英語: DePaul University)は、アメリカ合衆国(イリノイ州)シカゴに本部を置く米国の私立大学である。1898年に設置された。全米でも最大規模の研究型私立大学で、多様な人種を受け入れている。

ナレッジキャピタルでは、イクバル准教授率いるデポール大学生の視察を毎年受け入れております。

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